セッション2 『前立腺癌の現状として ~診断から治療、在宅ケアまで~』

演者: 神奈川県立がんセンター 泌尿器科 部長 三浦 猛 先生
座長: よつくら医院 院長 四倉 正己 先生

― 三浦猛先生はがん拠点病院である神奈川県立がんセンター泌尿器科に平成2年より勤めておられ、診断から在宅ケアまで広くがん治療に関わり、研究を行っている。本日は地域と連携した前立腺がんの治療・ケアについてお話しいただいた。

前立腺がんは在宅ケアに向いている。

三浦先生すべてのがんが増えてきている。他の死因となる病気の減少や検査技術の向上が主な要因と考えられているが、その中でも泌尿器科領域のがんは急速に増えており政府の予測だと2020年ごろに胃がんの罹患数を超えるとみられている。
神奈川県立がんセンターでは、特に前立腺がんの患者が2000年あたりから急増しており、PSA検診の普及による顕在化と、高齢者の増加が主な要因となっている。

尿路性器癌新登録患者数の推移(1992-2006) 前立腺癌、腎癌、精巣癌とも年を経るごとに微増傾向にある。特に移行上皮癌の増加が激しく1992年は20人程度だったが、2006年には106人となっている。

前立腺がんには内分泌療法という反応がよい治療法がある。そのため進行が早かったり、悪性度が強い場合でも、いったん快方に向かう。(完治する訳ではないのでこの時期にがんや予後に対する説明とケアを行うことが重要である。)

前立腺がんは当然、男性の疾患なので介護人はほぼ妻が主体となるケースが多く、介護力が温存される。また、他のがんと比べて高年齢での発症が多くみられる。
以上のことから、前立腺がんは比較的、在宅ケアしやすい疾患だといえるだろう。

最後まで診る

私はがんセンターに勤めたことにより気持ちがだいぶ変わった。逃げられないと自覚したことで、患者を最後まで診ようと心に決めたのだ。
患者やその家族も「最後まで診てほしい」というが、「最後まで診る」ということに患者側と我々とでは意識の相違がある。
患者側は治してもらい、さよならしようと考えるようだ。病気であったことを終わりにしたい訳だ。しかし、我々は「最後まで診る」、「最後まで看る」、最後は「最後まで看取る」と考えている。

進行度が高い患者の約半数、低分化がんも約半数、局所浸潤がん、中分化がんで約1割の人が亡くなる。診療に来る患者はみな治ると思っているので、亡くなる人との意識のギャップを埋めることがはじめから大事である。そのため、我々は次のような方針を立てて診療に望んでいる。

泌尿器の方針:最後まで診る ・本人を中心に家族を含めて良好な信頼関係を築く ・ウソをつかない ・本人を中心に病状を伝える:病名告知をまず行う ・安易な言葉をつかない(大丈夫、全部取れた、治る) ・セカンドオピニオンを積極的に利用する ・どこかで一生の病気と説明(がんは治らない、共存) ・主治医制で対応 ・初めから緩和のケアを開始する(チーム医療、ケア) ・後方支援病院、緩和病棟、病身連携などの整備 ・予後学(疾患別の末期症状と予後に関したデータ)

信頼関係の構築や病名告知、がんは治らない病気であることを説明する場合、下記のような例を用いて説明を行う。

日本人の平均余命と人生の感覚 男性の平均寿命:78.36歳 前立腺癌の年令:69歳 前期高齢者:65歳以上 後期高齢者:75歳以上 65歳以上が7%を超えると:高齢化社会 65歳以上が14%を超えると:高齢社会 2003年11月:65歳以上が日本全体は19%、神奈川県は12.98%であった

日本人の平均寿命を一週間に換算した場合、自分がいまどこにいるのかを認識していただく。前立腺がんの診断年齢の平均が69歳なので、半分以上が日曜日となりあと1日あるかないかということになる。それにより残った時間をどのように過ごすかを考えるよう促す。
また、合わせてがんの一般的な説明を行う。がんは正常細胞が遺伝子の異常や発がん性物質でがん化することで起こる。早期の発見であれば、治療ができるが、再発する場合もある。発見が遅れた場合も治療できるが、再発率が高くなる。他の部位に転移が進むと治療不能となる。これらの説明により自身の現在の状況への理解を促す。

以上のことからを患者に伝えるべきことをまとめると下記のようになる。。

「がんは治らない病気である」

  • がんは慢性疾患で一生の病気である。
  • 再発を起こすものなので、共存を考えていかなければならない病気である。

「がんで死ぬのはそれほど悪くない」

  • 痛みのコントロールができる。
  • 専門病院での治療ができる。
  • (気の合う)主治医を見つけることができる。
  • 自分の希望の場所(自宅・ホスピスなど)で最後を迎えることができる。

在宅ターミナルケアはチームケアになる

在宅ケアにおける患者・家族の支援体制 連絡方法 1.電話 2.FAX 3.携帯電話 4.インターネット 5.テレビ電話 患者・家族 行政 介護保険 訪問看護師 ケアマネージャー 訪問看護ステーション 在宅医療支援診療所 往診医 主治医 ネットワーク 薬局 宗教家 緩和病棟 癌性疼痛認定看護師 病棟・外来看護師 地域連携室 ボランティア MSW ペインクリニック 後方支援病院

神奈川県立がんセンターでは在宅医療支援診療所の助けを借りながら、往診医や訪問看護ステーションを中心に主治医と連携してケアを進めている。当センターには癌性疼痛看護師が多数おり、緩和病棟、地域連携室がしっかりしているので、ネットワークがうまく機能している。しかし、他では病院主治医がネットワークを十分に活用していない現状が多くある。そこで、今後在宅ターミナルケアがチームケアになっていくことを認識する必要が高まっている。

在宅ターミナルケアとケアチーム 1.ケアチームの主役は訪問看護師である 2.在宅主治医の責任と役割がまだ明確でない 3.末期癌の症状、治療の経験豊富な病院主治医が在宅ターミナルケアを理解すること 4.病院主治医は、病名告知は当然として、不治告知(死の宣言)、延命不可告知(治療不可告知)を行いさらに死に様告知(余命告知、臨死期症状の告知)を行うことが必須である。 5.病院主治医と在宅主治医との連携が必要 6.地域の施設ホスピス(緩和ケア病棟)の在宅主治医へのバックアップが必要 7.在宅主治医同士の連携が必要 8.患者数は年間5名程度が時間的、身体的にも適切だが、心理的負担は大きい

在宅で最も患者に近い存在になる訪問看護師が医療側での主役なりうるはずだが、現状はまだまだだ。また、病院主治医がうまく機能せずに、在宅ターミナルケアを実践しない理由がいくつかあるので列挙する。「経験がない。」「告知をしない(できない)。」「勤務医であるため、最後まで診るという意識が希薄。時間的、身体的、心理的負担を嫌う。」「死生観がない」など。ただし「毎日(24時間以内に)診ないと死亡診断書が書けない」と誤解している場合は注意すればすぐに是正できる。

― その後、先生が関わった実際の事例をもとに診断・経過・ケア等の全般に関わるお話をいただいた。

最後に、関わる方々はその道のプロになっていただきたい。病気はひとりひとり違いがあり、マニュアルやガイドラインは役には立つが、正解はない。だいたいマニュアルやガイドラインは50%信用しろといわれているので、そんな心持ちでいることが必要だ。あとは自分の信念を持ち、感性を大切にしてもらいたい。思い立ったら先手を打つぐらいの気持ちで、「おかしいな?」と思ったら電話をするとか、自分が患者のことをいかに思っているのかを伝えることも重要だ。